さいたま市北区日進町1丁目の2か所に、生計困難者に無料や低額で住居を貸し付ける「無料低額宿泊所」が開設されることが分かりました。ただ、近隣住民の間では不安が広がっており、有志が始めた反対署名には912筆が集まっています。
無料低額宿泊所とは
さいたま市北区日進町1丁目、日進公園近くの住宅と、農研機構農業機械研究部門近くの住宅がそれぞれ無料低額宿泊所としてオープンさせるために改装工事を受けています。いずれも元々一軒家だった建物に間仕切りなどを付ける工事が行われている模様で、さいたま市大宮区のL社がオーナーから借り受けて運営する予定です。
無料低額宿泊所とは、社会福祉法に定められた第2種社会福祉事業(生計困難者のために、無料又は低額な料金で、簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他の施設を利用させる事業)を行う施設の総称で、入居者の自立を支援するほか、ただちに単身生活が困難な人に一時的な居宅を提供する役割も持ちます。
無料低額宿泊所はさいたま市においては届出制で、届出に不備がなければ、市の許認可を得る必要がありません。さいたま市内には見沼区を中心に30か所ほどが存在(サテライト施設除く)し、生活困窮者を支援しつつ住居の提供を行っています。
日進町1丁目の施設を運営する予定のL社は、見沼区を中心に市内に宿泊所を20か所ほど展開しており、市内でも同種では大手の事業者です。
住民の不安と署名活動
日進町1丁目に無料低額宿泊所を設置するとの情報が最初に住民に回ったのは2024年10月29日(火)のこと。日進公園近くのL社第1日進寮(仮称)と農研機構農業機械研究部門近くのL社第2日進寮(仮称)それぞれの近隣住宅に説明会開催の案内が届きました。案内用紙が届いたのは両隣と向かい3軒ほどの各5~6軒ほどだったといい、案内用紙が届かなかった近隣の住民はこの点に疑問を呈しています。
突然の施設開設の知らせに驚いた近隣住民の間で、説明会開催の情報が拡散され、近隣住民のまとめによれば11月7日(木)の第1日進寮説明会には30名ほど、11月8日(金)の第2日進寮説明会には85名の近隣住民が参加しました。
説明会に出席した住民は「不安が解消されるような説明を求めたが、L社は終始”法律に基づいているので届出で開設できる”という点を強調しただけだった」と不満を漏らします。
不安が尽きない住民の間では施設開設の中止を求める機運が高まり、署名活動が開始されました。要望内容は(1)2軒の施設の開設中止 (2)L社への入居希望者斡旋の中止 (3)L社の事業に対する行政指導の強化 (4)L社による住民の理解を得られるような説明会の開催 の4点となっています。署名活動は11月17日(日)まで行われ、日進町1丁目の住民を中心に912筆が集まりました。
無料低額宿泊所 懸念点は
今回の無料低額宿泊所に反対する理由として、近隣住民に聞いたところ主に以下の理由を挙げています。
▼施設に対し
・門限がなく、夜勤が可能となる施設の運営形態では夜間の治安が不安だ
・管理人もいないため、地域住民でない住居不定だった方々が住むことで、治安が悪化しないか不安だ
・北区内の別の無料低額宿泊所では盗撮事案や傷害事案があったと聞いて子どもがいることもあり不安だ
▼会社に対し
・説明会が平日夜7時と参加できる人が多くなく、告知もわずか数件で、十分な説明ができていない
・再度の説明会開催や納得のいく説明を求めたが、「正式に届けている」の一点張りで打ち切られてしまった
・1日目の説明会で社長に「このような施設が近隣に出来たらどうするか」と質問したが「私なら引っ越す」と回答したなど誠実さが感じられない
・物件の選定を予算面だけでほぼ決めたと聞き、利益しか考えていないのかと不安だ
このうち居住者について、福祉事業の関係者は「こういった施設には反社会的な人は入居しない。過去に関係があった人や逮捕歴がある人もいるが、更生しケースワーカーもついているので安心してよいのでは」と指摘します。また、盗撮事案や傷害事案について所管のさいたま市生活福祉部生活福祉課に確認したところ、「当部署で取り扱った関連トラブルでは、ゴミ出しのルールなどに関してのものはあったものの、刑事事件までに発展した例は関知していない」と話します。L社の関係者も「そういった事案は当社内では全くない」と騒動に困惑していました。
一方で、署名活動を行っている住民有志は治安よりも会社の対応に疑問を呈しています。L社が地域の理解を得られなかったのは双方にとって確実に不利益をもたらしていると言えるでしょう。「(このような施設が近所に出来たら)私なら引っ越す」とした発言について、事実かどうかL社に問い合わせたところ、「その件についての取材は受け付けていない」との回答だったため、真偽のほどは不明です。しかし、住民の怒りを招くような発言や口調は、その意図があるわけではなくとも確かにあったと考えられ、住民と会社の軋轢が増しています。
署名を提出 再度説明会へ
L社は早ければ11月から無料低額宿泊所を開設する考えでしたが、住民の猛反対に合い、11月19日(火)にL社社長と所管のさいたま市生活福祉部生活福祉課の間で面談の場が持たれました。この話し合いについて、市は住民団体に「開設中止は難しいが再度説明会を開催するよう強く促した」と説明しています。
11月20日(水)には地元市議や日進町1丁目の篠田自治会長同席のもと、住民が署名を担当課に手渡しました。また、その後、11月29日(金)に再度説明会が行われることが決定したということです。
担当課はこのような反対運動について、近年ではなかったと話します。日進町1丁目の篠田彬自治会長も取材に応じ、「署名は自治会としてではないですが、自治会長名で警察の見回り強化や居住者の斡旋の停止を要求しました。コンセンサスを取って順序を守ってきてほしいということで、情報共有もしています」と答えました。不安が広がる住民に、L社が再度の説明会でどこまで納得のいく説明が出来るかに注目が集まります。
【参考】さいたま市内の無料低額宿泊所等及び日常生活支援住居施設一覧(さいたま市)