【記念誌より】ASUKAモデルの誕生

※本記事は日進小学校創立150周年記念誌の内容を掲載しているものです。

ASUKAモデルの誕生

2011年9月29日、日進小学校で悲しい事故が起きました。当時、日進小の6年生だった桐田明日香さんが、駅伝の選考会中に倒れ、翌日に亡くなったのです。

▲桐田明日香さん(母・寿子さん提供)

「うち、駅伝の練習頑張るね。ママ大好き!」

そう言って、明日香さんが家を出たのは29日の朝。母の寿子さんが、最後に明日香さんから聞いた言葉でした。午後4時過ぎ、駅伝の選考会で1000メートルを走り終えた明日香さんは、突然倒れました。倒れた明日香さんは意識がなく苦しそうな呼吸やけいれんが見られました。教員は「脈と呼吸がある」と判断し、救命処置を行いませんでした。しかし、11分後に到着した救急隊は、すぐに心肺停止と判断し救命処置を開始しました。


勤務中だった寿子さんは、夫の康需さんからの電話で事故の一報を受けた直後、叫んで座り込んでしまったそうです。すぐに搬送された病院に駆け付けましたが、治療を受けている明日香さんの姿は、むくんで腫れあがり別人のようになっていました。寿子さんの懸命な呼びかけに、涙を流したという明日香さん。「戻ってきて!」寿子さんたちの願いは叶わず、翌30日の夜に亡くなりました。

看護師だった寿子さんは、日進小の対応と説明に疑問を感じていました。一時は裁判も考えた寿子さんは、学校が大好きだった明日香さんが対立を望まないとも思い悩んできました。

11月下旬、当時、市教育長であった桐淵博さんは桐田さん宅を訪れ「明日香さんを無事にお返しできず、申し訳ありません」という、事故後初の謝罪の言葉を桐田夫妻に伝えました。その後、5時間以上にわたって話し合い、遺族と市教委が協力して再発防止に取り組むことを決めました。

2012年9月30日、明日香さんの命日に「体育活動時等における事故対応テキスト〜ASUKAモデル〜」が完成しました。ASUKAモデルには、突然心停止となった場合、死戦期呼吸と呼ばれる、ゆっくりあえぐような呼吸や、けいれんが認められることがあると記載されています。そして、最大の特徴は、救命処置で判断が必要な意識や呼吸の有無について「わからない」場合でも「ない」と同様に、次のステップへ進むことを明記し行動を促していることです。

ASUKAモデル誕生から10年、このテキストを活用し多くの命が救われています。また、日本各地で救命に関する取り組みも行われています。その一方で、まだ課題も残ります。一人でも多くの尊い命を救うためにも、今、私たちが出来ることは「何か」と考え、行動に移してみませんか?

▲協力・写真提供 桐田寿子さん